音楽とかmacとか日々雑感とか
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名解説者と呼ばれる人物には,その流暢な語り口の他に,やはり名解説者たる所以(ゆえん)が在るようです.これからお話するのは作り話でも何でも無く,先日実際に起こった出来事です.
プロの将棋の世界には,名人と竜王を筆頭に七つのタイトルがございますが,今年から新たに非公式戦としてスタートした棋戦があります.スポンサーも新聞社ではなく証券会社,そして各棋士は実際の駒や盤を使わず,インターネット上で対局をするという非常に斬新なものでした.これなら地方の棋士もわざわざ対局のため東京に足を運ぶ必要がありませんし,またファンの側も自宅のパソコンからそのサイトにアクセスするだけで,普段なかなか見られないプロの対局をリアルタイムで観戦することができます.
画面に表示されるのは,将棋盤および刻一刻と動いている駒の画像.そのすぐ下にチャットウィンドウが設けられており,解説者の言葉を読むことができます.プロの将棋は難解かつ高度で,一般のファンには解説のコメント無しにはなかなか楽しめないものなのです.もちろん解説コメントは対局中の二人には見えないようになっています.まだ実験段階にあるこの棋戦ですが,その第1回トーナメント戦を大きなトラブルもなく無事終了させまして,これから軌道に乗り始めるかといった所でした.
今はその第2回企画として,ベテラン勢七名とプロになったばかりの新鋭七名による「団体戦」が行われているところです.普段顔を合わせることの無い取り合わせで,エキシビションあるいは親善試合の色合いも強いのですが,それでもプロの対局をお手軽に楽しむことができるということで,多くのファンが観戦に駆けつけているようです.回線は実験段階ということもあり,同時に800名の観戦に耐えられるような強度で組まれていたと記憶しています.
その第1戦に,今日のお話の主役である I 九段が起用されました.昭和の頃から将棋界随一の名解説者として知られる方です.その立て板に水を流すような流暢でテンポのよい語り口は聴衆をぐいぐいと引込み,将棋はよくわからないが彼のファンだという方もいらっしゃるような,紛れも無い<名解説者>です.
ところでこのベテラン対若手の七番勝負は,圧倒的に若手有利であろうとの下馬評が立っておりました.まずインターネット将棋自体が若手のフィールドであり,お歳をめされたベテラン棋士の中にはマウスを初めて触るような方もいらっしゃったからです.この棋戦が「非公式戦」であるのにはそうした理由もございますが,また第二点には,持ち時間の短さも影響していました.持ち時間30分というのはプロの対局にしては非常に短い,いわば「早指し戦」に分類されるような対局でして,これもまた若手有利の追い風が吹く一因となっておりました.あるトップ棋士の方も,これは5勝2敗くらいで若手陣営の勝ちではないかとの予想を立てていたくらいです.
第1局に登場したのは,ベテラン陣営から T 九段,元タイトルホルダーの強豪ですが現在は第一線からやや退き,むしろ将棋連盟の理事として活躍中の人物です.そして若手陣営からは若き I 四段が出場しました.こうして800名のファンに見守られ,この「両対局者と解説者がそれぞれ違う場所にいる」という不思議な七番勝負はスタートしたのです.<名解説者>の流暢な言葉も,次々とチャットウィンドウ上に文字として現れます.おそらく専用のタイピストを隣において,喋る傍から打ち込んでもらっているのでしょう.
しかしながらこの第1局,ワンサイドゲームになってしまいました.勝ったのはどちらだったでしょうか.若手だったでしょうか.いえ,大方の予想に反し,ベテラン側が圧倒的勝利を収めてしまったのです.若手棋士は序盤のミスが響き,挽回不可能なまでに形勢差を広げられてしまったのでした.対局終了後に今の戦いを振り返る「感想戦」で,<名解説者>が「見落としがありましたか」とチャットで気遣いましたが,「これが実力です...」との力ない返答.本人にかかっていたプレッシャーおよび落胆ぶりが,端から見ていても痛いほど伝わってくるようでした.
<名解説者>は最後に二人に一言ずつもらって場を締めくくろうとしましたが,ここで大変なことが起こったのです.
ベテラン棋士は,初めてのインターネット対局は楽しかった,しかも勝つこともできて最高だったと答えました.この邪気の無い発言の直後,解説者が若手棋士に一言もらおうと話しかけた時に,<I 四段は去りました>とのメッセージが画面に表示され,回線が切断されてしまったのです.どうしたことか,多くのファンの目の前で,彼はこつ然と姿を消したのです.
回線切断はインターネット将棋独特のもので,故意のものだったかどうかは全くわかりません.アマチュアでひどい方になると,対局中であっても敗勢と見るや(潔く投了する代わりに)切断して逃げていくことがあります.<名解説者>もすぐに回線トラブルでしょうかとのフォローを入れましたが,彼が戻ってくる気配はありませんでした.姿の見えない800人の将棋ファンの期待とプレッシャー,ベテラン棋士の無邪気な一言,七番勝負のトップバッターとしての責任,ワンサイドゲームでの敗戦,<インターネット棋戦>,こうした条件が折り重なって,おそらくこの事件は起こってしまったのです.
<名解説者>は,そのわずか二分後に静かにこう切り出しました.
いま電話がありました
初めての対局は、なかなかスリリングで面白かったです
また機会がありましたら
教えていただきたいです
という I 四段のコメントでした
ハラハラしていた将棋ファンたちは,これでようやくほっと胸を撫で下ろしたのでした.ベテラン九段の「何回でもかかってきなさい...なんちゃって」というお茶目な返事でその場がなごみ,すべては丸く収まったのです.けれどもよくよく考えてみますと,対局者の二人と解説者,そして観戦者たちがそれぞれ別の場所にいるのですから,本当に電話があったのかどうかは実は誰も知らない訳です.実際のところはどうであったかについてはよく判りませんけれども,いずれにせよ僕は,こうした咄嗟の気遣いと気の利いた言葉に<名解説者>の名解説者たる所以を感じ,胸を打たれたのです.
プロの将棋の世界には,名人と竜王を筆頭に七つのタイトルがございますが,今年から新たに非公式戦としてスタートした棋戦があります.スポンサーも新聞社ではなく証券会社,そして各棋士は実際の駒や盤を使わず,インターネット上で対局をするという非常に斬新なものでした.これなら地方の棋士もわざわざ対局のため東京に足を運ぶ必要がありませんし,またファンの側も自宅のパソコンからそのサイトにアクセスするだけで,普段なかなか見られないプロの対局をリアルタイムで観戦することができます.
画面に表示されるのは,将棋盤および刻一刻と動いている駒の画像.そのすぐ下にチャットウィンドウが設けられており,解説者の言葉を読むことができます.プロの将棋は難解かつ高度で,一般のファンには解説のコメント無しにはなかなか楽しめないものなのです.もちろん解説コメントは対局中の二人には見えないようになっています.まだ実験段階にあるこの棋戦ですが,その第1回トーナメント戦を大きなトラブルもなく無事終了させまして,これから軌道に乗り始めるかといった所でした.
今はその第2回企画として,ベテラン勢七名とプロになったばかりの新鋭七名による「団体戦」が行われているところです.普段顔を合わせることの無い取り合わせで,エキシビションあるいは親善試合の色合いも強いのですが,それでもプロの対局をお手軽に楽しむことができるということで,多くのファンが観戦に駆けつけているようです.回線は実験段階ということもあり,同時に800名の観戦に耐えられるような強度で組まれていたと記憶しています.
その第1戦に,今日のお話の主役である I 九段が起用されました.昭和の頃から将棋界随一の名解説者として知られる方です.その立て板に水を流すような流暢でテンポのよい語り口は聴衆をぐいぐいと引込み,将棋はよくわからないが彼のファンだという方もいらっしゃるような,紛れも無い<名解説者>です.
ところでこのベテラン対若手の七番勝負は,圧倒的に若手有利であろうとの下馬評が立っておりました.まずインターネット将棋自体が若手のフィールドであり,お歳をめされたベテラン棋士の中にはマウスを初めて触るような方もいらっしゃったからです.この棋戦が「非公式戦」であるのにはそうした理由もございますが,また第二点には,持ち時間の短さも影響していました.持ち時間30分というのはプロの対局にしては非常に短い,いわば「早指し戦」に分類されるような対局でして,これもまた若手有利の追い風が吹く一因となっておりました.あるトップ棋士の方も,これは5勝2敗くらいで若手陣営の勝ちではないかとの予想を立てていたくらいです.
第1局に登場したのは,ベテラン陣営から T 九段,元タイトルホルダーの強豪ですが現在は第一線からやや退き,むしろ将棋連盟の理事として活躍中の人物です.そして若手陣営からは若き I 四段が出場しました.こうして800名のファンに見守られ,この「両対局者と解説者がそれぞれ違う場所にいる」という不思議な七番勝負はスタートしたのです.<名解説者>の流暢な言葉も,次々とチャットウィンドウ上に文字として現れます.おそらく専用のタイピストを隣において,喋る傍から打ち込んでもらっているのでしょう.
しかしながらこの第1局,ワンサイドゲームになってしまいました.勝ったのはどちらだったでしょうか.若手だったでしょうか.いえ,大方の予想に反し,ベテラン側が圧倒的勝利を収めてしまったのです.若手棋士は序盤のミスが響き,挽回不可能なまでに形勢差を広げられてしまったのでした.対局終了後に今の戦いを振り返る「感想戦」で,<名解説者>が「見落としがありましたか」とチャットで気遣いましたが,「これが実力です...」との力ない返答.本人にかかっていたプレッシャーおよび落胆ぶりが,端から見ていても痛いほど伝わってくるようでした.
<名解説者>は最後に二人に一言ずつもらって場を締めくくろうとしましたが,ここで大変なことが起こったのです.
ベテラン棋士は,初めてのインターネット対局は楽しかった,しかも勝つこともできて最高だったと答えました.この邪気の無い発言の直後,解説者が若手棋士に一言もらおうと話しかけた時に,<I 四段は去りました>とのメッセージが画面に表示され,回線が切断されてしまったのです.どうしたことか,多くのファンの目の前で,彼はこつ然と姿を消したのです.
回線切断はインターネット将棋独特のもので,故意のものだったかどうかは全くわかりません.アマチュアでひどい方になると,対局中であっても敗勢と見るや(潔く投了する代わりに)切断して逃げていくことがあります.<名解説者>もすぐに回線トラブルでしょうかとのフォローを入れましたが,彼が戻ってくる気配はありませんでした.姿の見えない800人の将棋ファンの期待とプレッシャー,ベテラン棋士の無邪気な一言,七番勝負のトップバッターとしての責任,ワンサイドゲームでの敗戦,<インターネット棋戦>,こうした条件が折り重なって,おそらくこの事件は起こってしまったのです.
<名解説者>は,そのわずか二分後に静かにこう切り出しました.
いま電話がありました
初めての対局は、なかなかスリリングで面白かったです
また機会がありましたら
教えていただきたいです
という I 四段のコメントでした
ハラハラしていた将棋ファンたちは,これでようやくほっと胸を撫で下ろしたのでした.ベテラン九段の「何回でもかかってきなさい...なんちゃって」というお茶目な返事でその場がなごみ,すべては丸く収まったのです.けれどもよくよく考えてみますと,対局者の二人と解説者,そして観戦者たちがそれぞれ別の場所にいるのですから,本当に電話があったのかどうかは実は誰も知らない訳です.実際のところはどうであったかについてはよく判りませんけれども,いずれにせよ僕は,こうした咄嗟の気遣いと気の利いた言葉に<名解説者>の名解説者たる所以を感じ,胸を打たれたのです.
今日はハーグから来た友人と食事でした.楽しかったです.不思議とあまり久しぶりという気がしなかったのはどうしてなんだろう.
実は昨日今日と王位戦第4局だったのですが,ちょっと吃驚した手が出ました.マニアックな話題,なおかつ図面も用意しませんので,将棋に興味の無い方はエレガントにスルーして下さい.先手(挑戦者)深浦康市八段,後手羽生善治王位.戦型は<角換わり>の腰掛け銀,先後同形です.例によって先手が▲4五歩の突き捨てから仕掛けて,▲2四飛△2三歩の後の51手目に▲2六飛.飛車の引き場所は従来は2八,そして丸山新手以降2九でしたが,近年の流行は2六なのだそうです(△3五銀には▲2九飛と二段モーションで引いて大丈夫,かつ▲4五銀のぶつけが残り後手大変).桂頭を守る△6三金に▲7四歩△同金と即座につり出して▲3四歩の取り込み.ここまでが一連の流れです.
後手羽生三冠の反撃は△8六歩でした.従来の△7六歩よりも厳しいとされる手だったと記憶しています.▲同銀に△8八歩▲同玉の交換を入れてから△3六歩.これが▲2六飛型への後手からの有力な反撃筋で,▲同飛と取れば△4九角▲6八金右△2七角成で飛車が詰むという毒まんじゅうです.実は先の6月に行われた棋聖戦の第1局(佐藤康光棋聖-渡辺明竜王)で全く同じ局面が生じていまして,その時の先手佐藤棋聖は▲1二歩△同香▲1三歩△同香▲2五桂と攻めをつないで行きました.ただここでは▲1三歩の瞬間に手を抜いて△3七歩成〜△7六桂(王手)で後手も相当,ということになっていたと思います.
という訳でこの3六歩は取れないはずだったのですが,今日指された深浦八段の応手で結論が変わったかもしれないのです.▲3三歩成.吃驚しました.僕が知らないだけかもしれませんが,新手ではなかったかと思います(どなたか詳しい方ご教授下さい).僕のへもへもな棋力ではよくわからないのですけれども,「これで良ければ話は早い」みたいな手のように映りました.現地の検討陣も予想していなかった手だそうですが,確かに△同銀なら▲2五桂と手順に桂を逃げられますし,△同桂なら3六〜3四という飛車の退路が開け,厄介な△3六歩を取ることができそう(!).こんな手が成立してしまうとなると,後手角換わりはますますつらそうだなあという気がいたしました.まあプロレベルはともかく,僕らレベルだと先手後手と勝敗はあんまり関係ないんですけど(笑).結果は深浦八段が押し切って3勝1敗,王位奪取にリーチです.
実は昨日今日と王位戦第4局だったのですが,ちょっと吃驚した手が出ました.マニアックな話題,なおかつ図面も用意しませんので,将棋に興味の無い方はエレガントにスルーして下さい.先手(挑戦者)深浦康市八段,後手羽生善治王位.戦型は<角換わり>の腰掛け銀,先後同形です.例によって先手が▲4五歩の突き捨てから仕掛けて,▲2四飛△2三歩の後の51手目に▲2六飛.飛車の引き場所は従来は2八,そして丸山新手以降2九でしたが,近年の流行は2六なのだそうです(△3五銀には▲2九飛と二段モーションで引いて大丈夫,かつ▲4五銀のぶつけが残り後手大変).桂頭を守る△6三金に▲7四歩△同金と即座につり出して▲3四歩の取り込み.ここまでが一連の流れです.
後手羽生三冠の反撃は△8六歩でした.従来の△7六歩よりも厳しいとされる手だったと記憶しています.▲同銀に△8八歩▲同玉の交換を入れてから△3六歩.これが▲2六飛型への後手からの有力な反撃筋で,▲同飛と取れば△4九角▲6八金右△2七角成で飛車が詰むという毒まんじゅうです.実は先の6月に行われた棋聖戦の第1局(佐藤康光棋聖-渡辺明竜王)で全く同じ局面が生じていまして,その時の先手佐藤棋聖は▲1二歩△同香▲1三歩△同香▲2五桂と攻めをつないで行きました.ただここでは▲1三歩の瞬間に手を抜いて△3七歩成〜△7六桂(王手)で後手も相当,ということになっていたと思います.
という訳でこの3六歩は取れないはずだったのですが,今日指された深浦八段の応手で結論が変わったかもしれないのです.▲3三歩成.吃驚しました.僕が知らないだけかもしれませんが,新手ではなかったかと思います(どなたか詳しい方ご教授下さい).僕のへもへもな棋力ではよくわからないのですけれども,「これで良ければ話は早い」みたいな手のように映りました.現地の検討陣も予想していなかった手だそうですが,確かに△同銀なら▲2五桂と手順に桂を逃げられますし,△同桂なら3六〜3四という飛車の退路が開け,厄介な△3六歩を取ることができそう(!).こんな手が成立してしまうとなると,後手角換わりはますますつらそうだなあという気がいたしました.まあプロレベルはともかく,僕らレベルだと先手後手と勝敗はあんまり関係ないんですけど(笑).結果は深浦八段が押し切って3勝1敗,王位奪取にリーチです.
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