♥ 魔法の鏡（後編）

＜あらすじ＞
ひょんなことから天野に殺意を抱いてしまったゴガツ．
さっそく刺客ウルリッヒを送り込んだが，そこで彼女が目にしたものは...


黒猫：ナーゴ（部屋の前に到着した．ターゲットは外出中．指示をくれ...）


　ゴガツウサギ：よし，窓から侵入し部屋の中で待機せよ


黒猫：ナーゴ（了解）

ゴガツ：ふふふふふ，あーははははは！　前回の失敗の二の轍を踏まぬよう，今回は小型カメラとマイクに加えウルリッヒとの相互通信が可能．パーフェクトだわ．ああ，我ながらこの才智が恐ろしくなってくる


黒猫：ナーゴ（侵入に成功した．次の指示をくれ）

ゴガツ：持っているかごをソファの陰にでも置いてとりあえず待機なさい．しかし結局のところ＜毒りんご＞とは，いささか古典的に過ぎたかもしれぬな，......ふーん，けっこう小奇麗な部屋じゃないの．ぬいぐるみが多いわね

黒猫：ナーゴ

ゴガツ：安心なさい，致死性の毒ではないわ．ただちょっと懲らしめてやるだけよ，フフフ......，どうやら戻って来たようね．しばらく隠れていなさい．折を見て指示を出すわ


（がちゃり）

　天野ゲルググ：・・・・・・


ゴガツ：相変わらず無表情で可愛げの無い娘だこと．いつも部屋でひとり何をしているのかしら．おや，ぬいぐるみを手にとったわ

天野：......ただいまハンニバル，今日もだめでした......

ゴガツ：ぬいぐるみに話しかけたァーーっ！（汗）

天野：今日はお塩と洗濯粉を間違えそうになって，また怒られてしまいました......（ぎゅううう）

ゴガツ：パッケージで気づけーっ！　というかキッチンにそんなものを置いてるお兄様にも問題があるけど（汗）　おや，今度は何か本を手にとったわ


天野：さあハンニバル，いっしょに今日のおさらいです...

ゴガツ：ウルリッヒ，少しターゲットに寄って．あれは...料理の本だわ．ふうん，なかなか熱心じゃない，けっこう本気でやってたんだ...いかんいかん，そろそろ毒りんごを渡さなくては．ウルリッヒ，かごを持ってターゲットの前に

（がばっ）

ゴガツ：ストップ！　この子何か思いついたら突然動くわね（汗），今度は何をするつもりだろう...．鏡に向ったわ，何かぶつぶつ言ってる...？


天野：......私はきれい，私はきれい，私はきれい，私はきれい......

ゴガツ：ええー，自己暗示のおまじないーー！（がびーん）　あーははははは！　ちょっと人には見せられない恥ずかしい姿を見てしまったわ．やれやれ，こんな娘に腹を立てていた自分が情けなくなってく...

天野：......あーあ，私も五月さんみたいに，奇麗で明るい人に生まれたかったな......

ゴガツ：えっ（ドキッ☆）　今，何て......

天野：さ，ハンニバル，つづきを読みましょうね，今度こそ成功させたい...


ゴガツ：ふ...ふふふっ......，この子は，この子はコンプレックスと戦いながら，自分を磨くため日々努力している．それに比べて今の私はどうだ，向上心を失い，現状に甘んじ，この安寧のぬるま湯にずっと浸かっていることを，心のどこかで望んでしまっていたのではないか？　見よ，あの子供のようにまっすぐで澄んだ目を......，＜鏡＞の語ったことは真実だったのだ．この子の方が今の私よりずっと輝いている！　ああ，あんなに軽やかに力強く羽ばたいていた私の翼はどこに行ってしまったのだ．私は，私はいったい何をしているのだ......！（さめざめ）

黒猫：ナーゴ（お嬢......泣いてるのか）

ゴガツ：馬鹿を言わないで！......すまぬウルリッヒや，本当に申し訳ないのだけど，さ，作戦を中止します．かごを持って，すみやかに撤収，してください...


黒猫：ナーゴ（お嬢すまねえ，それがもう無理なんだ）

ゴガツ：ほへ？

天野：あ，ウルリッヒさん．遊びに来てくれたんですか？

黒猫：ナーゴ

天野：このバスケットは五月さんからですか？　おいしそうな林檎...，そうだ，レシピがあります．林檎のタルトにしたら五月さんと一緒に食べられる...

ゴガツ：し，しまったぁーッ！　料理モードに入っている人間の思考パターンを全く計算に入れていなかったわ．よりによって食材を渡してしまうだなんてッ（汗）　繰り返す，作戦は中止です，即時かごを回収して撤退しなさい！

黒猫：ナーゴ（汗）

ゴガツ：だまらっしゃい！　無茶とかゆーな！　作戦を中止し即時撤収せよッ！


＊＊＊


　三月ウサギ：ふーん，ホールサイズの黒焦げタルトを一気にねえ


　天野ゲルググ：はい，お腹が空いてるからと私の分まで...


　ル・モンテズ：五月殿がそんな大食いだったとは知らなかったのー


三月：まあ食欲の秋と言いますし（笑）．いずれにせよ後で見舞いに行きましょう

モン：そうぢゃな，五月殿が寝込んでいるのも珍しいしのー


＊＊＊


　ゴガツ：うーんうーん


黒猫：ナーゴ（大丈夫かお嬢，まあ自業自得だな）

ゴガツ：違う，神に誓って言う！　あのタルトには絶対に，私が入れた毒より遥かにヤバい何かが入っていたッッ！！


＜完＞